スプレッドは「買値(Ask)」と「売値(Bid)」の差。見た目は小さな差でも、取引回数が増えるほどパフォーマンスに大きく効く固定コストです。本記事では、仕組み・種類・拡大要因・実用的な比較法・戦略別の最適値までを丁寧に分解します。
もくじ
この記事のゴール
- スプレッドの定義・仕組み・拡大要因を言語化できる。
- 「スプレッドだけ」で判断せず、総コストで比較できる。
- 自分の取引頻度と手法に合せた最適値を決められる。
スプレッドの基本(Bid/Askの関係)
価格板には常に買値(Ask)と売値(Bid)の2本が提示されます。たとえばUSD/JPYが Bid=150.000
、Ask=150.002
の場合、スプレッド=0.2pips。買いで入るとAskで約定し、直後にBidで評価されるため、入った瞬間はスプレッド分の含み損からスタートします。
重要なのは、スプレッドは点ではなく時間で変動するということ。銘柄・時間帯・イベントで広がったり狭まったりします。
用語 | 意味 | 覚え方 |
---|---|---|
Bid | 市場が「あなたから買う」価格=あなたの売値 | Bidは「売り抜ける」出口 |
Ask | 市場が「あなたに売る」価格=あなたの買値 | Askは「買うときにAsk(尋ねる)」 |
Spread | Ask−Bidの差 | 差はコスト、回数で雪だるま |
原則固定と変動の違い
原則固定は通常時に最小値で提示し、荒い相場では拡大します。変動は秒単位で上下。どちらが優れているかは、あなたのエントリー頻度と指標の回避ルールで変わります。
- スキャル派:変動でも平均が十分に狭いことが重要。
- デイトレ:原則固定で安定性を取る手も。
- スイング:スプレッド影響が薄くなるため、約定力とスワップ等の他要素が優先。
なぜ拡大するのか(流動性・指標・時間帯)
スプレッドは流動性の逆関数です。板が薄いと、仲値提示側はリスク回避のため差を広げます。代表的な拡大要因は以下。
- 重要指標発表(雇用統計、CPI、FOMC、PCEなど)
- 市場クローズ/オープン前後(週末・早朝)
- 祝日・夏枯れで板が薄い時期
- 急変動(戦争・災害・突発ニュース)
設計として、指標前後〇分は取引しない、拡大時は自動で発注停止などの回避ルールを仕込むと、コストのバラツキを抑えられます。
総コストの考え方:手数料・滑りも含める
「スプレッド0.xpips!」は魅力的ですが、約定力と滑り(スリッページ)を無視すると実現コストは悪化します。ECN口座のようにスプレッド+手数料方式も一般的です。比較は常に総コスト(Spread + Commission + Slippage)で。
口座タイプ | 表示スプレッド | 手数料 | 滑り体感 | 向いている人 |
---|---|---|---|---|
STP/標準 | 広め〜中庸 | なし | 中 | 少〜中頻度、簡便性重視 |
ECN/Raw | 極狭〜変動大 | あり | 低〜中 | 高頻度・スキャル・EA運用 |
実務では、約定拒否率や再クオートの有無も重要。数字が良くても入らなければ意味がありません。
業者比較の作法(注意点チェックリスト)
- 平均値だけでなく、中央値や95%点を見る(外れ値対策)。
- 発表直後や早朝など、苦手時間の拡大幅を確認する。
- 同時刻・同条件の実測ログ(自分の環境)で比較する。
- 通貨ペアごとに特性が違う。USDJPYは狭く、クロス通貨は広くなりやすい。
- 約定速度・滑り分布・サーバー遅延も総コストに直結。
スキャル/デイトレ/スイング別の最適化
スキャルピング
1トレードの獲得pipsが小さいため、スプレッドの比率が高くなりがち。Raw+手数料で総コスト最小、指標回避ルール、低レイテンシ環境が鍵。
デイトレード
エントリー回数と獲得幅のバランス。原則固定の安定感も魅力。ロンドン〜NY重複時間帯に集中し、拡大の少ない時間を選ぶと良い。
スイング
スプレッド影響は相対的に小さく、スワップやロールオーバーコスト、約定力の方が重要。
実務:損益分岐点と必要RRの計算
スプレッドがS
、手数料がC
、期待利幅がT
pipsのとき、損益分岐は T >= S + C + 期待スリップ
。必要なリスクリワード比 RR_req
は、損切り幅SL
と組み合わせて RR_req = (S + C + 期待スリップ + 余裕分) / SL
で見積もれます。
例 | S(pips) | C(pips換算) | 期待スリップ | SL | 必要RR |
---|---|---|---|---|---|
スキャル | 0.2 | 0.1 | 0.1 | 3 | ≥0.13 |
デイトレ | 0.3 | 0.0 | 0.1 | 15 | ≥0.03 |
スイング | 0.5 | 0.0 | 0.2 | 80 | ≥0.01 |
このように、同じスプレッドでも手法次第で影響度が異なることが分かります。
時間帯×通貨ペアの目安
以下は一般的な感触(目安)です。実際はブローカーや市況で異なります。
時間帯 | USDJPY | EURUSD | GBPJPY | 備考 |
---|---|---|---|---|
東京早朝 | 広い | 広い | とても広い | 板薄・週明けギャップ注意 |
東京日中 | やや狭い | やや狭い | 中庸 | 仲値前後は動意 |
ロンドン開始 | 狭い | 狭い | やや広い | 出来高増で安定 |
NY重複 | 最狭〜中 | 最狭〜中 | 中 | ボラ増・指標注意 |
NY終盤 | 広い | 広い | 広い | 流動性低下 |
よくある質問
Q. 「スプレッド0」の口座はお得?
A. 多くは手数料別です。総コストを比較し、約定力や滑りも評価しましょう。
Q. 指標時の拡大は避けられない?
A. 基本的に避けにくいです。ルールで回避するのが現実的。運用では「入らない勇気」もコスト削減です。
Q. 広がった時の損切りは?
A. 指標時は滑りも拡大します。成行/逆指値の性質を理解し、約定スリップを前提にリスク%を下げる設計が必要です。
まとめ
スプレッド=市場の摩擦。磨かれたベアリングほど小さく、熱いとき(イベント)ほど広がります。あなたの手法・時間帯・回避ルールに合わせて、数字ではなく分布で捉え、総コストで比較しましょう。