もくじ
約定とは?――“クリックが現実になる”瞬間
約定(やくじょう、英: Execution)とは、あなたの注文(オーダー)が市場で相手方(カウンターパーティ)と
マッチし、価格・数量・売買区分が確定して取引が成立することを指します。
「ボタンを押した=すぐに希望価格で成立」は神話。実際にはレイテンシ(遅延)、滑り(スリッページ)、
スプレッド、流動性(板の厚さ)など複数の物理&制度的要因が絡みます。
例えるなら、ライブ会場の物販列。列の進み(流動性)、在庫(厚み)、レジの台数(マッチング能力)、
キャッシュレス端末の反応速度(レイテンシ)が、あなたが欲しいTシャツを望んだ価格・時間で手に入れられるかを左右します。
注文の基本タイプ(成行・指値・逆指値・IFD/OCO/IFO)
FXで代表的な注文タイプを、約定のされやすさの観点から整理します。
- 成行(Market):価格を選ばず即時成立を優先。高速だが、スリッページが発生しやすい。
- 指値(Limit):希望価格以上(売り)/以下(買い)でのみ成立。約定は保証されないが、価格有利。
- 逆指値(Stop):指定価格に到達したら成行として発動することが多い。損切りやブレイク狙いで使用。
- OCO:利確の指値と損切りの逆指値を同時に置く。片方が約定するともう片方はキャンセル。
- IFD/IFO:新規が約定したら自動で次の注文(利確/損切)を発注。戦術の自動化に有効。
約定の成立条件は「相手の提示とあなたの注文が一致」すること。相手がいなければ、どれだけ良い価格でも約定しません。
約定の流れ:フロントからマッチングまで
- あなたの端末(PC/スマホ/EA)が注文データを作成。
- 回線 → ブローカーのフロントサーバへ到達(ここでレイテンシ発生)。
- 注文審査(証拠金・数量・銘柄・営業時間)を通過。
- STP/ECN/DMA等のルーティングにより、LP(リクイディティ・プロバイダ)やマッチングエンジンへ。
- 板の厚み・優先順位ロジックに従って約定。必要なら部分約定が返る。
- 約定通知(価格・数量・時刻・手数料)が返送。口座残高・ポジション・注文履歴が更新。
この一連はミリ秒〜数百ミリ秒で進行します。距離(東京↔ロンドン)、混雑、指標、約定方式で体感は変わります。
スプレッド・スリッページ・リクオートの正体
スプレッドは買値(Ask)と売値(Bid)の差。市場の静寂時は狭く、荒れた瞬間は広がります。
スリッページは「注文時に見た価格」と「実際に約定した価格」のズレ。
リクオートは提示価格で約定できず、新価格の確認を求められる現象です。
スリッページは悪ではありません。トレンド方向に有利に滑るポジティブ・スリッページもあり得ます。
ただし、指標時の超短期成行はマイナス側に滑りやすいので、ロット管理は保守的に。
部分約定・約定拒否:流動性の“すき間”を読む
指値で板を食べに行くと、数量不足で一部だけ約定することがあります(部分約定)。
反対に、相場急変時にはブローカー側のリスク制御で約定拒否(あるいは停止)が起きる場合もあります。
大ロットは複数価格帯に跨って約定しやすく、平均約定価格が想定より悪化することがあります。
スキャルピングはロットの刻み・時間分散で“板の窓”を通過させるのがコツです。
約定力を左右する5つの要素(回線・サーバ・方式・時間帯・銘柄)
- 回線:有線 > Wi-Fi、国内VPS > 海外VPS。安定性と遅延が成績を左右。
- サーバ距離:取引サーバと近いほど速い。東京/ロンドン/NYのいずれに寄せるかを選ぶ。
- 約定方式:DD/OTCよりも、STP/ECN/DMAは市場連動性が高い反面、手数料や滑りの癖が異なる。
- 時間帯:ロンドン・NY重複で流動性↑、祝日・早朝は↓。ロールオーバー直前は広がりやすい。
- 銘柄:メジャー通貨 > マイナー通貨。ゴールド/指数は指標に敏感でヒゲが出やすい。
板の厚みと優先順位:FIFO/プロラタ/ハイブリッド
取引所型の一部市場では価格優先の次に時間優先(FIFO)が来ます。ECNでも似たロジックが使われ、
同価格帯では先に置いた注文が先に約定しやすい。マーケットメイカー環境でも内部のマッチング規則が存在します。
発注の秒未満のタイミング、数量の細分化、見せ板に流されない冷静さ——これらが約定効率に影響します。
実践:指標時・薄商い・ロンドンFIXでの立ち回り
- 重要指標直後:成行は滑りやすい。小ロットで刻む、指値を離す、あるいは“入らない”勇気。
- 薄商いの早朝:スプレッドが広い。損切はやや広めに、ただしロットは控えめ。
- ロンドンFIX:一方向のフローが集中。飛び乗り成行は危険。戻り/押しの指値を用意。
EAではニュースフィルター、最大スリッページ、最大スプレッドのパラメータを必ず設けましょう。
EA運用者向け:注文APIと待機系の落とし穴
自動売買では、注文リクエストの頻度制限(レートリミット)、エラー再送、部分約定ハンドリング、
FIX/Bridgeの遅延、サーバメンテ時間などを考慮する必要があります。
「ノートレード」問題は、条件が厳しすぎる・取引時間外・スプレッド/ボラ条件未達・
最小ロット/最小距離違反などが典型。ログのエラーコードを監視して自動復旧を組み込みましょう。
用語早見表(比較表)
| 用語 | 意味 | 約定への影響 | 対策 |
|---|---|---|---|
| スプレッド | Bid/Askの差 | 広いと不利 | 時間帯選び・銘柄選び |
| スリッページ | 見た価格と約定価格の差 | 方向次第で有利/不利 | 最大許容値・ロット刻み |
| 部分約定 | 数量の一部が先に成立 | 平均価格がズレる | 数量分割・時間分散 |
| 約定拒否 | 相場急変等で受理不可 | 機会損失 | 指標を避ける・方式見直し |
| ECN/STP | 外部LPへ接続 | 市場連動・手数料あり | 手数料込みの実質コスト評価 |
よくある誤解Q&A
- Q. 成行なら必ず即時に最良価格で約定しますか?
- A. いいえ。速さは相対的で、価格は流動性とタイミングに依存します。
- Q. スリッページは悪ですか?
- A. 一概に悪ではありません。有利方向への滑りも現実に起きます。
- Q. 約定力はブローカーだけの責任ですか?
- A. 回線・端末・発注方法・時間帯などユーザー側要因も大きいです。
チェックリスト:明日からの約定精度UP
- 最大スリッページ/最大スプレッド/取引時間フィルターを設定した。
- 回線を安定化(有線/VPS)。端末の常駐アプリを整理した。
- ロットを刻んで部分約定を前提化。板の厚さに合わせて時間分散。
- 指標直後の“無理エントリー”をしないルールを明文化。
- ログに約定価格・遅延・拒否率を記録して改善サイクルを回す。
まとめ
約定は技術×制度×確率の交差点。価格だけでなく、時間・数量・場所の三拍子を整えることで、
実現コスト(スプレッド+手数料+滑り)を最適化できます。
今日からは「約定力=実力の一部」。クリックの速さではなく、準備の深さで勝ち筋を太くしていきましょう。
キーワード:約定、スリッページ、流動性、ECN、STP、成行、指値、逆指値、部分約定、リクオート
目的:初心者が約定の仕組みとリスクを理解し、実運用でのコスト最適化と失敗回避に役立てる
