利確のタイミングは「技術」よりも設計です。勝ちを伸ばす設計、負けを小さく終わらせる設計、そして「逃げ時」を迷わない設計。この3つを同時に満たすと、エントリーの質がそのまま利益に変換されやすくなります。本稿は価格・時間・ボラティリティ・構造(構造=トレンド/レンジ/転換)の4軸で利確を言語化し、再現性の高い実戦手順に落とし込みます。
もくじ
はじめに:利確の難しさは「確率の揺らぎ」
相場は確率過程です。利確の正解は「その一回」ではなく、長期の分布を最適化できたかどうかで決まります。値幅が伸びる局面もあれば、伸びきらずに反転する局面もある。だからこそ、ルールは「伸びたらついていく/伸びないなら逃がす」を両立させる必要があります。
利確フレームワーク:目的→指標→ルール
まず目的を決めます。「月次のPF(プロフィットファクター)を1.4以上」「平均Rを0.8以上」など。次に指標を定義(R倍数、ATR、ボラ比、時間経過、構造変化)。最後にルールで実装します。
- 目的:損益曲線のドローダウンを浅く保つ
- 指標:最大不利行き(MAE)、最大有利行き(MFE)、平均保有時間
- ルール:MAE>0.8Rに接近で半分利確/MFE>2Rになったら分割トレール、など
RRと期待値:利確は「出口で作る」
期待値は E = 勝率×平均利益 − (1−勝率)×平均損失
。同じエントリーでも、出口の位置が変わるだけでEは大きく動きます。RR(Risk/Reward=損益比)を先に規定し、シナリオの中で「どのRで切るか」を固定/可変で設計します。
例:初期ストップ1R、第一利確1.5Rで半分、建値移動、残りはトレールで3R〜5Rを狙う。この構造は勝率が多少ブレてもEの下振れが小さく、右側に長い“尻尾”を作りやすいのが利点です。
4種類の利確手法(価格/時間/ボラ/構造)
1) 価格ターゲット型
水平線(前高安・ネックライン・節目)、フィボ拡張(1.272/1.618)、チャネル上限などに着弾で決済。明快で検証しやすいのが長所、走り続ける相場では取りこぼしが出ます。
2) 時間制限型
「ロンドン初動から2時間」「NYオープン後60分」など、時間の窓でクローズ。横ばいで消耗しない一方、トレンドデイには伸びを削ることも。
3) ボラティリティ型
ATR、標準偏差、ボリンジャーバンドの収縮/拡大で利確。勢いの変化に敏感で、移動ストップとも相性良。
4) 構造変化型
直近の押し安値/戻り高値のブレイクや、トレンドライン割れ、MAの傾き反転で決済。環境の否定をトリガーにするため、最後の一伸びを取りやすい反面、反転が急だと滑ることもあります。
トレーリングの設計図(追随/固定/段階)
- 追随型:ATR×n、MA20/EMA20追随、パラボリックSAR。相場の伸びを活かす。
- 固定幅型:+1.0Rごとにストップを0.5R切り上げ。管理が簡単。
- 段階型:1.5Rで建値、2.5Rで+1R、以降はスイングの押し戻り背後に。利を伸ばすときは緩く、守るときは厳しく。
部分利確と建値ストップ:残す勇気
部分利確は心理負荷を下げ、右側の尻尾を探る余地を残します。推奨は「50%-建値-トレール」または「33%-建値-分割トレール」。建値BEは万能ではないので、スプレッド拡大の時間帯は+0.1R程度のクッションを置くと良いでしょう。
セッション×指標:伸びやすい時間に合わせる
アジアは滑らかに推移しやすく利幅は狭め、ロンドンは初動のダマシ後に伸び、NYは指標でトレンド継続/転換が発生。利確の窓(例:ロンドン初動+90分、NYオープン+60分)を事前に設定しておくと、「粘る/逃げる」の判断が揺れません。
ケーススタディ:順張り・ブレイク・逆張り
順張り押し目
H4上昇。M15押し目からM5で高値更新。プラン:1.5Rで半分、ストップBE、以降は直近スイング安値-1ティックにトレール。セッション跨ぎは時間利確も検討。
ブレイク&リテスト
レンジ上抜け。実体で確定後のリテストでIN。プラン:レンジ幅=測定ターゲット。第一着弾で半分、残りはボラ縮小のサイン(ボリンジャー収縮)で手仕舞い。
逆張り(バンドウォーク収束狙い)
+2σの外走り終盤。反発の起点でスキャル気味に1.0–1.5R固定。上位足に逆らうので「勝率を利益で稼がず、回転数で稼ぐ」。
利確チェックリスト
- 初期RRは≥1.5か? 1.2未満なら見送り。
- 第一着弾の価格根拠は明確か?(水平線/測定ターゲット/前高安)
- 時間の窓は?(ロンドン+90分、NY+60分など)
- ボラ指標は上向き/横ばい/低下?(ATR、実体幅)
- 構造否定はどこか?(押し安値/戻り高値/トレンドライン)
利確ルール対照表(否定条件つき)
手法 | 主軸 | 第一利確 | 残し方 | 否定シグナル | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
ターゲット型 | 価格 | 1.5R or 前高安 | 半分+BE | 反対足の包み足 | 検証容易 |
時間型 | 時間 | 窓到達 | 全決済 or 一部継続 | 窓内の出来高減 | 横ばい対策 |
ボラ型 | ATR | ATR×n | ATRトレール | ATR低下 | 勢い重視 |
構造型 | 高安/線 | スイング切替 | 構造背後 | 押し安値割れ | 最後の伸び狙い |
検証とジャーナル化:R倍数で統一
通貨・セッションが違っても比較できるよう、全てRで記録します。最低限「入場根拠 / 第一利確R / 最終R / 保有時間 / 否定シグナル」を固定のテンプレートに入力。スクショに矢印とストップ/利確を記し、MFE/MAEの分布を月次で可視化すると、どの利確が自分の相場観に合うか見えてきます。
よくある失敗と対策
- 利食い早すぎ:第一着弾で全利確してしまう。対策=最低でも10〜30%は残す。
- 伸ばしすぎ:トレールが緩すぎて利益を吐き出す。対策=指標前は一段引き上げ、もしくは時間利確に切替。
- 建値病:すぐBE化してノイズで刈られる。対策=+0.3〜0.5Rのクッション。
- 雰囲気決済:チェックリストがない。対策=ルールカードをモニター横に貼る。
裁量を半自動化するヒント
MT5での一例:ATR(14)
と iMA(20,EMA)
を監視し、ATR縮小&MA横ばいで部分利確をアラート。ストップは直近スイングの背後にトレール。ログへはR, MFE, MAE, HoldTime
を書き出して、翌日朝に集計します。
まとめ
利確は「価格・時間・ボラ・構造」という4つの窓で設計し、第一利確→建値→トレールの三段運用で分布の右側を太らせます。伸びる日に伸ばし、伸びない日に逃げる。あなたの裁量は、設計でさらに強くなります。