「MT4とMT5、どっちを選べばいいの?」――自動売買や裁量トレードを始めると必ずぶつかる疑問です。本記事では、MT4(MetaTrader 4)とMT5(MetaTrader 5)の違いを、対応範囲・操作感・分析機能・テスター・EA(自動売買)・互換性・運用面の7観点から徹底比較します。初心者でも迷わないように、最後に用途別のおすすめとチェックリストを用意しました。
もくじ
基本スペックと対応商品
MT4は2005年に登場し、主にFX(店頭為替)向けに広く普及しました。MT5はその後継として設計され、FXに加えて株式・先物・CFDなどの多資産をネイティブに扱えるのが特徴です。ブローカー側の提供状況に依存しますが、銘柄の種類や板情報の拡張が望めるのはMT5です。
ユーザーインターフェースと操作感
見た目は似ていますが、MT5はタブ・パネルの反応や検索性、ナビゲータのカテゴリ分けが洗練されています。気配値表示の絞り込みやウォッチリスト管理がしやすく、ティックチャートのレスポンスも良好。初心者はどちらでも慣れますが、複数銘柄を高速に切り替える運用ではMT5が有利です。
チャート機能と時間足・インジケーター
MT4の時間足は標準で9種類、MT5は21種類(分足の刻みや2分/3分足、レンジの微調整)を備えています。複数時間足の俯瞰や、チャート再現の滑らかさはMT5が一歩先行。インジケーターはMT4の資産が豊富ですが、公式標準の拡張やビルトインの描画精度はMT5の方が高い傾向です。
ストラテジーテスターと最適化
自動売買派にとっての肝はここ。MT4のテスターはシングルスレッド中心、一方でMT5はマルチスレッド最適化と分散テスト(クラウドエージェント)に対応。ウォークフォワード的な検証やモンテカルロ的ストレステストの使い勝手も良く、大量パラメータの探索速度はMT5が圧勝です。
EAとスクリプト:MQL4とMQL5の違い
MT4はMQL4、MT5はMQL5で記述します。文法は似ていますが互換ではありません。MQL5はイベント駆動・OOP(オブジェクト指向)を強化し、ポジション/注文/約定のハンドリングが構造化されています。既存のMT4用EAをそのままMT5で走らせることはできず、移植には書き換えが必要です。
オーダータイプと実行の違い
MT5はヘッジ口座/ネットティング口座の両方をサポート(ブローカー依存)。部分決済・複数ポジションの取り扱いや、指値/逆指値のバリエーションが拡張されています。スキャルピング派やポジション管理を細かく行う人には、MT5の注文体系が扱いやすい場面が多いでしょう。
バックテストの信頼性:ヒストリカルデータとモデリング品質
MT4ではテスト品質を示す「モデリング品質90%」などの目安がよく語られますが、ティック生成方法やスプレッド設定で結果が大きく変わります。MT5は実ティックや最良の一致を選べ、スプレッド可変・約定遅延のシミュレーションも柔軟です。テストの再現性と速度を重視するならMT5に軍配が上がります。
互換性・移行戦略:MT4→MT5
EAの移行は、ロジック・関数・発注APIの再設計が必要です。まずは裁量口座は現状維持、新規EAはMT5で開発という二段構えが現実的。よく使うインジケーターは、オープンソースのMQL5版を探し、無い場合は簡易移植(表示だけ)から始めると移行コストを抑えられます。
ケーススタディ:裁量派/EA派/裁量+EAハイブリッド
裁量派:チャート描画に慣れたMT4を維持しつつ、ニュースや板情報を重視するならMT5のデモで補助する形が現実的。
EA派:テスト速度とパラメータ探索が鍵。MT5での開発・運用を推奨。
ハイブリッド:MT5でEAのスクリーニングを走らせ、裁量トリガーだけ自分で実行する設計が効率的です。
運用面:VPS・マルチ端末・ログ管理
- VPS:EA稼働はVPS前提。再起動やWindows Update対策を自動化。
- モバイル:外出先の確認はMT5アプリが快適。通知とクイック操作が軽い。
- ログ:約定・エラーを毎日バックアップ。異常検知のためのキーワード検索を週次で。
比較表(クイックリファレンス)
項目 | MT4 | MT5 | コメント |
---|---|---|---|
対応資産 | 主にFX | FX+株式+先物+CFD | ブローカー提供に依存 |
時間足 | 標準9種類 | 21種類 | 短期足の刻みが豊富 |
テスター | 単一/限定的最適化 | マルチスレッド最適化 | 速度と再現性はMT5 |
EA言語 | MQL4 | MQL5 | 互換なし(移植必要) |
注文体系 | 基本的 | 拡張的 | ヘッジ/ネットティング |
インジ資産 | 歴史的に豊富 | 徐々に拡充 | 需要次第で逆転も |
学習コスト | 低〜中 | 中〜高 | 慣れれば差は縮まる |
よくある質問(Q&A)
- Q1. MT4のEAをそのままMT5で使える?
- できません。コードの書き換えが必要です。移行用にラッパーを使う手もありますが、根本は別言語として扱うのが安全。
- Q2. 初心者はどちらから始めるべき?
- 裁量中心ならどちらでもOK。自動売買中心・検証重視ならMT5推奨。
- Q3. 乗り換え時の注意は?
- 同一ロジックで同一パラメータを使わない。まずはデモや小ロットで挙動確認を。
まとめ
結論はシンプル。裁量の慣れ・既存資産がMT4にあるなら継続、EA開発・検証・多資産運用を見据えるならMT5。どちらが正解ではなく、目的に合う方を選ぶのが唯一の正解です。最後に、意思決定を助けるチェックリストを置いておきます。
決定チェックリスト
- EAでの最適化や高速テストが必要 → MT5
- 既存のMT4インジ/EAを活用したい → MT4
- 株式や先物も視野に入れる → MT5
- モバイルの操作性重視 → MT5
- 環境を大きく変えたくない → MT4
付録A:移行時の作業テンプレ
1) 主要インジのリスト化(優先度A/B/C)
2) MQL5版の有無を検索(置換候補)
3) 無い場合はプロットのみの簡易版を自作
4) EAはロット/スプレッド/遅延をパラメタ化
5) デモで2週間、リアルは最小ロットで2週間
6) エラー/約定ログを日次でバックアップ
付録B:用語ミニ辞典
- ヘッジ口座:複数方向のポジションを同時保有できる口座形式。
- ネットティング口座:同一銘柄は常に1ポジションに集約する形式。
- クラウドエージェント:MT5の分散最適化で使われる外部計算資源。
付録C:実運用での注意メモ
テストに使ったヒストリカルデータと本番の流動性は異なります。スプレッド拡大や約定遅延で成績は容易に変化します。EAのパラメータは「市場が変化しても壊れない帯域」を想定して設計し、最適化の谷底(過学習)を避けましょう。また、裁量トレード併用時は、EAのポジションと約定キューが衝突しないよう、銘柄・時間帯・ロットの棲み分けを行います。
ログ運用は地味ですが強力です。損益の原因はエッジの有無だけでなく、通信断・リクオート・スリッページなどの運用事故に潜むことも多い。週次でログを検索し、異常語(Off quotes, Requote, Invalid stops など)を可視化。発生頻度が閾値を超えたら、ブローカー窓口やVPS変更を検討します。
最後に、環境更新は段階的に。OSやプラットフォーム、ドライバ更新は、まずはデモ口座で挙動確認し、週末に本番反映するのが定石です。