「デモでは勝てるのに、リアルにしたら負ける…」――多くの初心者が一度はぶつかる壁です。これは腕が急に下がったのではなく、環境と心理が変わっただけ。この記事では、デモ(仮想口座)とリアル(実資金)の違いを5つの軸――心理・執行・コスト・流動性・学習効果――で整理し、安全にリアルへ移行するための階段を用意します。最後はチェックリストとQ&A、練習メニューで締めます。
もくじ
なぜ差が出る?デモとリアルの本質的な違い
チャートの価格はほぼ同じでも、あなたの意思決定とブローカーの実運用条件は変わります。お金が実際に増減すると認知バイアス(損失回避・確証バイアス・アンカリングなど)が強く働き、エントリーの躊躇・損切りの遅れ・早すぎる利確を生みます。同時に、リアルではスプレッドやスリッページ、約定拒否などの摩擦が加わり、バックテスト/デモで見えていた期待値が目減りします。
違い①:心理(緊張・喪失回避・過信)
リアルの最初の壁は緊張です。1回の損失が現金で意識され、心拍と判断が同期してしまう。対策は「数量を極小化」し、事前に損切り距離から数量を逆算すること。さらに、勝ってもルール逸脱は敗北と定義し、“執行の質”をKPIに据えます。
- 症状:エントリーが遅れて不利約定、損切りボタンに指が動かない、利確を急ぐ。
- 処方箋:OCOで最初からSL/TPをセット、チェックリスト読み上げ、アラートで意思を補助。
違い②:執行品質(約定・スリッページ・リクオート)
デモでは多くのブローカーが理想的な約定を擬似的に提供します。リアルでは、板の厚み・瞬間の流動性に依存するため、滑り(注文価格からのズレ)や約定拒否が発生します。特に指標直後や薄商いの時間帯は、スプレッド拡大+滑りが重なりやすい。
実務対策:
- 成行中心なら、許容スリッページ幅を小さく設定しすぎない。
- 指値・逆指値は、意図した構造(直近高安の外側等)に置く。ヒゲ狩り対策。
- 高速連打は避ける。一度の決定でSL/TPまで同時に配置する。
違い③:コスト構造(スプレッド・スワップ・手数料)
デモのスプレッドは固定・緩やかで表示されることが多いですが、リアルは変動制が一般的。さらに、スワップポイントやコミッションが実コストとして効きます。短期売買ほどコスト比率が上がるため、RR(リスクリワード)と勝率設計を現実的に。
違い④:流動性と相場状況(指標・薄商い・拡大スプレッド)
ロンドン・NYの重なる時間は厚みがある一方、早朝・祝日・夏季は薄く、意図せぬヒゲが増えます。デモだと経験しにくいものの、リアルでは“待つ”力が勝率を左右。やらない時間を明確にする運用ルールを。
違い⑤:学習効果(記録・再現性・フィードバック速度)
デモは恐怖が薄いぶんフォームが崩れにくい利点がありますが、心理耐性の鍛錬という点では不十分。理想は、小額リアルで心理に慣れ、デモや過去検証でフォームを磨くという両輪運用です。勝った・負けたより、ルール遵守率・再現性の高い型の蓄積をKPI化しましょう。
リアル移行の階段:4ステップ
- ステップ0:観察と記録 …… 取引せず、得意な時間帯・型をスクショ収集。
- ステップ1:デモで型を固定 …… 1つの型に絞り、連続20回のルール遵守を目標。
- ステップ2:小額リアル …… 許容リスク1%以下、OCO前提で執行の質をKPI化。
- ステップ3:サイズを段階増 …… ドローダウン時は据え置き、直近50取引の期待値で判断。
比較表(デモ vs リアル)
観点 | デモ | リアル | 対策・使い分け |
---|---|---|---|
心理負荷 | 低い:冷静に実行しやすい | 高い:恐怖/興奮で崩れやすい | サイズ極小+OCO+音声チェック |
約定品質 | 理想寄り・滑り少なめ | 流動性依存・滑りやすい | 時間帯選択・指値活用・再発注を急がない |
コスト | 表示上は軽い | スプ変動+手数料+スワップ | RR1.5以上・回転数の最適化 |
学習効率 | フォーム整備に最適 | 心理訓練に最適 | 両輪:デモで型、リアルで耐性 |
再現性 | 高め | 低下しがち | 記録・タグ付け・勝因敗因の言語化 |
練習メニュー:橋渡しドリル
- 音読チェック:エントリー直前に「根拠・損切り距離・数量・RR」を声に出す。
- 1取引1スクショ:入る前/出た後を必ず保存、勝因敗因を一行で。
- タイムボックス:得意時間帯以外は「取引しない」を選べるようにスケジュール化。
- 週1レビュー:10〜20枚を並べ、再現性の高い場面だけを残す。
よくある質問(初心者Q&A)
- Q1. いつリアルに移行すべき?
- デモで連続20回のルール遵守を達成し、RR1.2〜1.5が維持できたら小額リアルへ。
- Q2. いくらで始める?
- 生活費と切り離し、1回の損失=口座残高の0.5〜1%で逆算。数量は損切り距離から決めるが鉄則。
- Q3. 指標時は?
- 最初は回避。経験を積んでから、小サイズで研究。
- Q4. デモで勝てない…
- 原因は「型が多すぎる」か「RR設計が甘い」ことが多い。1つの型に絞るか、損切り距離の定義を先に固定。
- Q5. スリッページが怖い
- 時間帯選択+指値活用で緩和。許容滑りをゼロにしすぎると約定拒否が増えるため注意。
失敗しないコツ:3原則
- 数量は常に逆算。気分や勝敗でロットを上げない。
- OCO前提で執行。損切り・利確を同時に置き、意思の力に頼らない。
- 週1レビューを固定。ルール逸脱率をKPIに、1つだけ改善。
まとめ
デモとリアルの差は、主に心理と摩擦(執行・コスト)にあります。型はデモで固めて、心理は小額リアルで鍛える――この両輪が近道です。数量を損切り距離から逆算し、OCOで実行、記録→レビュー→微修正を回しましょう。今日から、無理のない一段目を踏み出してください。
ケーススタディ:同じ戦略でも結果が変わる理由
同じ押し目買いルールでも、デモでは+15pips、リアルでは+3pipsで撤退してしまう――よくある現象です。背景には、利確の早押しと損切りの遅れが同時に起きる心理の非対称性があります。数字で見ると、平均利益が縮み、平均損失が伸びるため、勝率が維持されても期待値が低下します。これを矯正する最短ルートは、「到達したら出る」価格を先に決め、OCOで拘束することです。
ミニ日記テンプレ(1取引)
【型】押し目買い(トレンド継続)
【根拠】1H 20EMA反発+直近高値ブレイク
【損切り距離】18pips(直近安値の外側)
【数量】口座×1%÷(18pips×価値)
【RR目標】1.5(SL18:TP27)
【執行】OCOで同時発注/約定前スクショ保存
【結果】+29pips/滑り+0.3pips/指標回避OK
【改善】利確直前の動揺はチェックリストで緩和
指標・イベント時の運用ガイド
- 避けるべき例:雇用統計直後の成行逆張り、薄商い時間の逆指値ギリギリ攻め。
- 許容できる例:発表から数分後、スプレッドが平常化し構造が見えたら小サイズで型に回帰。
- ログ必須:スプレッドの最大値・滑り・約定拒否の発生タイミングを記録する。
メンタル・トリガー対策集
- 連敗トリガー:2連敗したら「その日は終了」を自動化。サイズは翌日も据え置き。
- 利益確定後の興奮:次の1回はスキップ。無駄打ちを防ぐ。
- 取り返し欲求:音読チェックと外散歩5分をルール化。
KPIダッシュボード(週次)
指標 | 目標値 | 今週 | 先週 | メモ |
---|---|---|---|---|
ルール遵守率 | 95%以上 | — | — | 逸脱理由はタグ記録 |
平均RR | 1.5以上 | — | — | 利確早押し注意 |
勝率 | 50〜60% | — | — | 型の一貫性優先 |
期待値(pips) | +α | — | — | 負けの伸びを抑える |
よくあるミスと修正プロトコル
- ミス:損切りを広げてしまう → 即時撤退+当日終了。翌日にルール再読。
- ミス:利確を伸ばしすぎて反転 → 半分利確+トレーリングに統一。
- ミス:指標直前に新規 → 次回からアラート10分前で取引停止。
環境セットアップ:最短チェック
- テンプレートチャート保存(1m/5m/15m/1h+MA/BB/RSI)。
- OCOのデフォルト距離を設定し、キーバインドを確認。
- スクショ保存先をクラウドに固定(/journal/YYYYMM/)。
- 数量電卓をタスクバーに常駐。
学習ロードマップ(30日)
- Day1–7:デモで型の固定(20回)。
- Day8–14:小額リアルで心理慣れ(サイズ一定)。
- Day15–21:レビューと微修正(RR改善)。
- Day22–30:一時的にデモへ戻し、改善後の型を確認 → 再度小額リアル。
ツールの使い分け
- デモ:フォームの矯正、パターン収集、検証の素振り。
- リアル:心理耐性、執行の最適化、現実コストの把握。
用語補足
- 確証バイアス:自分の見立てに都合の良い情報だけ集めてしまう傾向。
- アンカリング:最初に見た価格に心が縛られ、合理的判断が遅れる現象。