「CPI（消費者物価指数）」は、家計が実際に購入するモノやサービスの価格を時系列で追いかけ、“物価がどれだけ上がった（下がった）か”を測る統計です。為替市場では、インフレ動向の先行シグナルとして注目度が非常に高く、米国のCPIはとくに米ドル／金利／株式に同時多発的なインパクトを与えます。この記事では、ヘッドラインとコアの違い、計算の考え方、発表スケジュール、予想と結果の読み解き、そして実戦トレードへの落とし込みまで、初心者にもわかりやすく整理します。
もくじ
CPIとは？基礎と用語
CPIは英語でConsumer Price Index。一定の基準時点（基準年＝100）からどれだけ価格水準が変化したかを指数で表します。変化率は前年同月比（YoY）や前月比（MoM）がよく使われます。市場はとくにコアCPI（食品・エネルギーを除く）のトレンドを重視し、中期的な物価基調＝金融政策の方向性を占います。
米国CPIは労働統計局（BLS）が毎月発表。日本では総務省統計局、ユーロ圏ではユーロスタット（HICP）。国により中身も頻度も細部が異なるため、“どの国のCPIなのか”を常に意識しましょう。
ヘッドラインとコアの違い
ヘッドラインCPIは「総合」の物価上昇率。コアCPIはボラティリティの大きい食品とエネルギーを除外し、基調的なインフレをみるための指標です。短期の値動きはヘッドラインが主導する局面もありますが、政策金利の道筋により効いてくるのはコアのトレンドであることが多いです。
| 項目 | ヘッドラインCPI | コアCPI | スーパ―コア |
|---|---|---|---|
| 対象 | すべて | 食料・エネルギー除外 | コアからさらに住宅関連等を除いたサービス中心 |
| 利点 | 生活実感に近い | 基調判断に向く | 粘着性のある賃金・サービスインフレを把握 |
| 短期の変動 | 大きい（エネルギー要因） | 相対的に小さい | さらに小さいが持続性に注目 |
CPIの仕組み：バスケットと加重平均
CPIは、家計調査などから作られた「代表的な買い物カゴ（バスケット）」の価格変化を、ウエイト付き平均で集計したものです。例えば家賃の比率が高ければ、家賃の上昇がCPI全体に及ぼす影響は大きくなります。このウエイトは定期的に見直されます。結果として、国や時期によってCPIの“効き方”が違うことがあります。
加えて、米国の住居費は「帰属家賃（OER）」などの推計値が大きな比率を占めます。実感と統計のズレが話題になるのはこのためです。トレードでは、“どの品目が伸びて全体を押し上げたのか”も確認しましょう。
発表スケジュールと確認先
米国CPIは原則として毎月中旬（日本時間の夜）に公表されます。為替の値動きが最も荒くなるイベントの一つで、スプレッド拡大・滑り（スリッページ）・約定拒否などのテクニカルリスクも増えます。事前に公式のカレンダーや経済指標カレンダー（例：BLS、各証券会社、金融情報サイト）で日程・予想値を確認しましょう。
- 発表形式：前年同月比（YoY）、前月比（MoM）、コアのYoY/MoMなど
- 発表後：詳細内訳（住居、交通、医療、食品など）に素早く目を通す
- 夏時間・冬時間の切替時は日本時間での公表時刻に注意
予想・結果・サプライズの読み方
市場はコンセンサス予想（エコノミスト予想の中央値）を事前に価格に織り込みます。結果が予想より高ければインフレ加速＝ドル高・金利上昇になりやすく、低ければ逆というのがベースの反応です。ただし、前回値の改定やコアの中身、内訳の偏り（例えば住居だけ強い等）で相場の解釈が変わることがあります。
発表直後はアルゴ取引が見出し数値に反応し、数分〜数十分後に人間の解釈が追いついて価格が反転することも珍しくありません。短期トレーダーは“初動追随か、二段目の波（プルバック）待ちか”の戦略選択が重要です。
為替（USD/JPY・XAUUSDなど）への影響
CPIは米金利期待を通じて米ドルに影響を与えます。代表例としてUSD/JPYと金（XAUUSD）の反応を簡単に整理します。
| シナリオ | 金利期待 | USD/JPY | XAUUSD | 着眼点 |
|---|---|---|---|---|
| 予想上振れ（インフレ強い） | 利上げ・高金利長期化観測↑ | 上昇しやすい | 下落しやすい | コアMoM、サービス価格、住居費 |
| 予想下振れ（インフレ鈍化） | 利下げ観測・早期緩和観測↑ | 下落しやすい | 上昇しやすい | 一時的要因か構造的減速か |
| 内訳に偏り（住居だけ強い等） | 市場解釈が割れる | 乱高下・往って来い | 乱高下・往って来い | 続く統計（雇用、PCE、ISM）で検証 |
実務では、債券利回り（2年・10年）とDXY、ゴールドの同時モニタリングが有効です。相関が崩れる場合は「解釈の分岐」や「流動性の薄さ」を疑いましょう。
発表前後のチェックリスト
- ① 経済カレンダーで日時・予想・レンジ・前回値を確認
- ② 直前のガソリン・中古車価格など“先行手掛かり”を点検
- ③ 重要サポレジ（直近高安、前回発表の初動起点）にラインを引く
- ④ スプレッド拡大・約定リスクを考慮し、ロットを適正化
- ⑤ 初動は追わず、1分・5分足の「実体で確定」まで待つ作戦も
- ⑥ 逆行時の即時撤退ルール（最大損失、時間損切）を紙で可視化
- ⑦ 事後はコアMoM、サービス、住居、財の寄与度を確認し次回に活かす
PCEとの違い／スーパ―コアとは？
PCE（個人消費支出デフレーター）は米商務省BEAが作成し、FRBが政策判断で重視する傾向があります。CPIと比べてウエイトや推計方法が異なり、医療の扱いなどで乖離が生じることがあります。トレーダーは「CPIで動き、PCEで微調整」という力学を意識すると整理しやすいでしょう。
「スーパ―コア」は定義が複数ありますが、ここでは＜コアCPIから住居関連を除いたサービス＞を指す使い方が一般的。賃金に連動しやすく粘着性が高いため、中期的なインフレの持続力を測る物差しとして注目されます。
よくある誤解とQ&A
Q1. CPIが上がれば必ずドル高？
A. 短期的にはその傾向がありますが、既に“織り込み済み”なら反応は鈍く、むしろ「材料出尽くし」で反転することもあります。予想とのギャップがカギです。
Q2. コアCPIだけ見れば十分？
A. 原油ショックのようにエネルギーが主役の局面ではヘッドラインが主導。両方をセットで確認するのが安全です。
Q3. 発表直後のスキャルは危険？
A. スプレッド拡大・滑り・急反転のリスクが高いです。約定品質と撤退ルールを最優先してください。
用語ミニ辞典
- YoY / MoM：前年同月比／前月比。
- コア（Core）：食品・エネルギーを除いた指数。
- 寄与度：品目別にCPI全体へどの程度影響したか。
- OER（帰属家賃）：自宅所有者が借家だと仮定した場合の推計家賃。
- スーパ―コア：住居を除くサービス価格など“粘着的”な部分。
想定読者：一般的なFX学習者（初心者〜中級手前）
キーワード：CPI, インフレ, 経済指標, 為替, 米ドル
目的：ヘッドライン／コアの違い・読み方・為替インパクト・実戦手順を体系的に理解し、イベント時の判断ミスと過度なリスクテイクを減らす。
まとめ
CPIはインフレの“体温計”。ヘッドラインとコア、さらにスーパ―コアまで層で捉えることで、イベントの一発花火に振り回されにくくなります。予想との差・内訳・債券金利を同時に見て、トレードはリスク管理から逆算しましょう。次回の発表前には、本記事のチェックリストで準備運動を。市場はいつも気まぐれですが、手順を整えればブレは小さくできます。
付録：実戦メモ（テンプレとチェック項目の詳細）
以下は著者の個人的テンプレです。各自のリスク許容度・使用口座の約定品質に合わせて調整してください。
- 事前準備（T-24h〜T-1h）：直近の原油・中古車オークション、家賃指標、物流コストを点検。要因仮説を一行で言語化。
- ポジション管理：指標30分前に既存ポジの一部を利確／縮小。指標跨ぎは最大想定損失を口座残高の1〜2%以内に。
- 初動判定：1分足3本の実体が同方向か、5分足の初動高安をブレイクで追随するか、2択を事前に決める。
- 撤退ライン：初動起点の反対側へ実体確定／または債券利回りが逆行で即撤退。時間損切は5〜15分。
- 二段目：初動の半値押し・戻りとVWAP／ピボットで反応を見る。出来高薄い時間帯は見送り優先。
- 事後検証：内訳寄与度のトップ3をメモ。次回の仮説と照合。PCE／雇用統計／ISMまで一連の流れで検証。
