エントリーは「根拠の蓄積」と「否定の管理」です。感覚ではなく、再現可能な判断材料を積み上げ、同時にそれを打ち消す条件を明文化しておくことで、裁量判断は仕組みに変わります。本稿では、価格・時間・流動性の3軸を土台に、実戦で迷いを減らすための手順とチェックリストを提示します。
もくじ
はじめに:裁量を仕組みにする
裁量=自由ではありません。経験と状況判断をルール化して反復できる形に落とし込むことが、長期の成績を安定させます。具体的には「観測 → 仮説 → 行動 → 検証」サイクルを1トレードに内蔵し、仮説が間違っていたと判定されたら素早く撤退する設計にします。
根拠の三本柱(価格・時間・流動性)
根拠は偏らせず、複数の独立した材料を束ねます。
- 価格(Price):高値安値の更新、トレンドライン、EMAとSMAの位置関係、ボリンジャーバンドのエクスパンションなど。
- 時間(Time):セッション切替、前日/前週/前月の高安、経済指標の前後、ロンドンFIXなど時間イベント。
- 流動性(Liquidity):板の厚薄、スプレッドの拡縮、アジア→ロンドン→NYの手口変化。MT5ではティック密度や実効スプレッドで代替観測。
3軸のうち2軸以上で「順方向に整合」したときのみトリガーを探します。
マルチタイムフレームの整合
M1やM5で入るとしても、上位足(H1/H4/D1)の文脈から外れないことが肝心です。
- 上位足で「上昇・下降・レンジ」を判定。
- 中位足で押し戻りの位置(フィボ 38.2–61.8% 等)を特定。
- 下位足でトリガー(小さなチャネル崩れ、MAクロス、ピンバー)を確認。
期待値の見える化(勝率×損益比)
期待値は E = 勝率 × 平均利益 − (1 − 勝率) × 平均損失
。
エントリー根拠は損益比(RR)を事前に規定できる形が理想です。例えば「直近スイング高値まで1.8R、否定ラインまで1R」のように測ってから入ると、同じ根拠でも期待値の高低を比較できます。
セットアップ→トリガー→エントリー
多くの負けは「トリガーだけで入る」ことから生まれます。セットアップ(前提条件)を満たした後、トリガー(引き金)で精度を上げる二段構えに。
- セットアップ例:上位足の上昇トレンド内で、M15の押し目がフィボ50–61.8%に到達。
- トリガー例:M5で直近下降チャネルを上抜け、出来高増加、MA20を終値で回復。
この順番を破らないことが「待つ力」です。
根拠チェックリスト
- 上位足の方向と位置(トレンド/レンジ、高安のどこか)。
- レベルの一致(水平線×フィボ×移動平均×バンド)。
- ボラとスプレッド(エントリー直後に即損にならない厚み)。
- 否定条件の明文化(どこで間違いと認めるか)。
- RR≥1.5 以上を基本線に。
代表的なエントリーパターン
① 順張り押し目/戻り売り
上位足トレンド方向。中位足の押し戻りで、下位足のチャネル崩れやMAリテストで入る。無理に天底を取らず、二番目の波に集中。
② ブレイク&リテスト
明確なレンジ上限/下限のブレイク後、水平線へのリテストでロールリバーサル(抵抗→支持)。失敗時はすぐ損切り。
③ カウンター(逆張り)
拡大しすぎたバンド外走りの収縮狙い。上位足の逆風では短期で薄利撤退を徹底。
セッション・指標とボラティリティ
アジアは滑らか、ロンドンは初動のフェイント、NYは指標で流れが転じやすい——ざっくりした特徴を土台に、自分の根拠が機能しやすい時間帯を可視化します。
よくある失敗と認知バイアス
- 確証バイアス:都合の良い根拠だけ集める。
- 保有効果:建てた瞬間に応援団になる。
- サンクコスト:含み損を正当化して握る。
対策は否定条件を先に書くこと。線を越えたら淡々と撤退。
検証・ジャーナル化のコツ
勝ち負けの理由を「根拠の当たり外れ」で記述。スクショに矢印と否定ラインを書き込み、テンプレート化して数量化(RR、時間帯、根拠数)。
根拠と否定条件の対応表
根拠 | 観測指標 | 肯定シグナル | 否定シグナル | メモ |
---|---|---|---|---|
上位足トレンド | H4/D1の高安更新 | 高値更新+押し目 | 直近安値割れ | 逆行は短期のみ |
押し戻りの位置 | Fibo 38.2–61.8% | ゾーン内で反発 | 深掘り/戻り過ぎ | 過信せず併用 |
ボラ/流動性 | スプレッド/ティック | スプ安定・厚い | 急拡大のスプ | 指標直前は避ける |
ブレイク品質 | 出来高/実体幅 | 実体+リテスト | ヒゲだけ | フェイント注意 |
まとめ
裁量判断は、前提(セットアップ)と引き金(トリガー)を分離し、否定条件を先に置くことで、再現可能なスキルに変わります。価格・時間・流動性という3軸で根拠を束ね、RRで期待値を管理し、勝ちやすい時間帯に集中しましょう。